2026年5月20日に株式会社ハッカズーク主催のセミナー「サステナブルエンジニアを惹きつける採用術 ― 『エンジニアの持続的成長 37のヒント』著者が語る、選ばれる会社の条件」が開催されました。
本セミナーには、株式会社テクノプロ コンサルティング・パートナーズ社の管理本部 人材開発部長である阪上 誠氏が登壇しました。ハッカズークの芦川 由香をナビゲーターとして行われた対話をもとに、本記事では採用や教育育成のヒントをお伝えします。
従来の「技術経験」や「労働条件」だけでエンジニアを惹きつけるのは、もはや困難な時代に突入しました。では、エンジニアが未来を託したくなるのはどのような企業なのか。
選ばれる企業が持つ要素と、その採用術を紐解きます。
※本記事は2026年5月20日時点の内容を基に作成しています。
登壇者紹介

阪上 誠氏
株式会社テクノプロコンサルティング・パートナーズ社
管理本部 人材開発部長
テクノブレーン株式会社 取締役
建設資材・アウトソーシング業界で計24年のキャリアを歩み、営業・新規事業立ち上げ・拠点マネジメントを経て採用部門の責任者へ。直近まで年間1,000名規模のエンジニア採用を統括。2026年3月から新カンパニー設立に伴い、SDV・AI・スマートファクトリー領域を担う新会社の人材戦略を設計。「採用と人材開発で事業をドライブさせる」を信条に、スタッフィングから価値創出へのビジネス転換を人の力で牽引する。
ITエンジニア本大賞2026 ビジネス書部門で大賞受賞。

芦川 由香
株式会社ハッカズーク
取締役副社長
レインカンパニーCEO
岐阜大学農学部を卒業後、電力系IT企業に入社しシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。
その後、リクルートキャリアに転職し、IT領域の採用コンサルタントとして企業と転職希望者を支援。2019年1月にエンジニア採用に特化したHRコンサルティングおよびRPOサービスを提供する株式会社レインを設立。
2024年にアルムナイ事業を展開する株式会社ハッカズークと経営統合によりグループ化し、株式会社ハッカズーク取締役副社長/レインカンパニーCEOに就任。
エンジニアが未来を描くために〜AI時代の採用基準:「技術力」よりも「変化適応力」を見極める
芦川:ご著書の第1章で「エンジニアが未来を描くこと」について触れられています。そもそも、なぜ未来を描く必要があるのでしょうか?

阪上: エンジニアの仕事自体が「未来を創ること」だからです。以前は、特定のフレームワークを覚えれば安泰という道筋が、ある程度見えていました。
しかし、今はAIがコードを書いて設計書を作り、テストやドキュメントも対応できるようになってきています。AIの進化が早すぎる今、実装だけの価値は薄れています。
ですから今後重要になるのは、知っている言語や持っている技術ではなく、「変化にどう適用するか」という力です。技術と現場を深く理解したうえで、AIを使いこなしてどのような価値を届けるか。その思いを持っていただくことが、変化の激しい時代を生き残る方法だと考えています。
芦川:一方で、なかなか未来を描けないエンジニアも多いかと思いますが、何が原因だと考えられますか。
阪上: 一番は忙しすぎるからです。現在はAIにコードを書いてもらえるようになった反面、判断や構想といった「脳に負荷のかかる仕事」の比重が増しているため、余計に疲弊してしまいます。
ですから、エンジニアは忙しくなりすぎないようにセルフマネジメントをしなければなりません。同時に、企業側はエンジニアが未来を考えるための「余白」を意識的に作ってあげないと、組織として立ち行かなくなると感じています。極端なことを言うと、エンジニアを週休3日にするのも一つの解決策なのではないでしょうか。
【要点まとめ:AI時代の採用基準と環境づくり】
- 未来を考える「余白」を自社の魅力としてアピールする
- 「実装力」から「変化適応力」へ評価軸をシフトする
自社で「修羅場」を提供できるか?エンジニアの市場価値を高める流動的なキャリア形成
芦川:長年言われてきたエンジニアの「35歳定年説」について、阪上さんはどう捉えていますか?
阪上:かつて聞いたように、1週間徹夜で仕事するといったような昔の働き方をすれば体力的に限界が来たかもしれません。しかし、今は逆転の発想ができるはずです。これまでの専門的な経験や、どの現場で摩擦が起きるかを肌で知っている経験者の価値は、むしろ高まるからです。
年齢よりも「変化に対する適応力」を磨くことが生涯現役でいられる鍵であり、これを持っているエンジニアは、年々価値が上がると思っています。
AIでは積めない経験を実装してお客様に提供するという観点で言うと、エンジニアとして価値が出てくるのは、後半のキャリアだとも考えられます。
芦川:35歳まで働くと今後のキャリアパスを考えて転職も視野に入れると思いますが、エンジニアが転職やキャリア形成を考える際には何を軸に選ぶべきでしょうか?
阪上:「大手かスタートアップか」という企業の看板ではなく、「どれだけ変化に対応する経験を積めるか」で選ぶべきです。経験を一つずつ積み上げるのも大事ですが、ときにはあえてインパクトをとって「修羅場」に飛び込む選択も必要です。
AI時代は、保守だけするよりも、顧客と一緒にAI導入を考えるといったように顧客課題に近い仕事をする人ほど市場価値が上がります。今の時代、一社で勤め上げると考えるより、お互いが成長してまた別のタイミングで戻ってくるような、流動的で前向きなキャリア形成が理想です。
【要点まとめ:候補者を惹きつける「新しい魅力付け」】
- 「年齢」による無意識のバイアス(35歳定年説)を捨てる
- 「会社の看板(規模)」ではなく「修羅場(経験)」を提供する
- 再入社も歓迎する流動的なキャリアを許容する
AI時代のリスキリング〜人材不足を乗り越えるBBB戦略
芦川:力をつけて元の会社に持ち帰るという流れの中で、業界全体が強くなっていくのが理想ですね。
人材不足を社内リスキリングで解消しようとしている企業もありますが、実際に可能なのでしょうか。
阪上:残念ながら、リスキリングだけで人材不足を100%解消することは不可能です。なぜなら、技術の進化が速すぎるため、知識をつけて現場の経験を積んで学んだことが3年後に必要かどうかもわからないからです。
当然、リスキリングは行っていかなければなりませんが、かといって足りないスキルセットが完全に解消されることはありません。おそらく「ずっと人材が足りない」という状態は、ある程度続くのではないかと考えています。
芦川:人材ポートフォリオを埋める手段として、弊社は「BBB」、すなわちBuy(採用)、Build(育成)、Borrow(外部から力を借りる)の3つを掲げています。これらの中から人的資本獲得方法を選択するための判断ポイントは、どうお考えでしょうか。
阪上:この変化の激しい時代では、BorrowしながらBuildする重要性が増してくると思っています。すべてを内製化すると追いつかず、逆にすべて外注化すると知見が残りません。ですから、外部パートナー活用しながら、その知見を自社内に残していき、一緒に育成もしてもらう。そうしなければ、スピード感に追いつけないと思っています。これは採用をやらないと言うわけではありません。もちろん、採用して育成するわけですから、Buyも重要です。
企業としての重要な要素は、外部から力を借りる割合をどのくらいにするかだと感じています。

また、個人的には人材を最も価値が出る場所へ橋渡しするという意味で、もう一つのBとして「Bridge」も付け加えても良いのではないかと考えます。
採るだけでも育てるだけでも、借りるだけでも足りません。ですので、社内のどこに接続すると人材の可能性は開花するのかといった視点も必要です。
芦川:普段は誰とどのような会話からBuy、Build、Borrowの割合を決定しているのでしょうか。
阪上:技術戦略チーム、教育研修チーム、そして事業戦略チームと密に連携をとり、常に「今後の事業にどのような人材が必要か」を議論して決定しています。
軸にしているのは「技術戦略マップ」です。どのテクノロジーに、どの程度のエンジニアを配置・育成すべきか、5年後10年後を見据えた技術の羅針盤のようなものを可視化しています。そうした動きの中に私たち採用・人事部門も深く入り込み、必要な人材の過不足を常に数値化してビジネス戦略に落とし込んでいます。
【要点まとめ:人材不足を乗り越える人的資本獲得戦略】
- 人材の価値を最大化する「Bridge(橋渡し)」の視点も取り入れる
- 「リスキリング(育成)」だけでは人材不足は解消できない
- 「Borrow(借りる)しながらBuild(育てる)」のバランスを重視する
「スキルチェック」から「未来の伴走」へ。候補者に対する採用コミュニケーション
芦川:採用の場面では、候補者に対してどのようなコミュニケーションをとるべきでしょうか。
阪上:より重要になってくるのは、「候補者が目指す未来を見ること」です。採用において、企業側は例えば「Java経験何年」といった求人票を掲載して、職務経歴書に書かれている技術経験ばかり見る動きは残っています。
しかし、最近は「顧客課題を一緒に伴走して解いていきたい」と考えるエンジニアが増えています。
そうした変化もあり、候補者を見るときには、技術だけではなく、顧客接触経験を強みとして捉えるべきです。今後スカウトを打つ際には、その強みを会社で働く中で強化していくといった将来像をお伝えするコミュニケーションをとる必要があります。
つまり、単にテクニカルな部分にフォーカスするのではなく、ビジネスパーソンとしてどう一緒に成長していきますかというメッセージの仕方が求められるのです。
芦川:「入社したらエンジニアとしてこうした未来が描ける」というメッセージを、スカウトや面接で伝えるイメージでしょうか。
阪上:そうですね。もちろん個人情報に配慮したうえで、これからはAIを賢く活用すべきです。例えば、あらかじめ履歴書や経歴書から自社の教育環境や現場のプロジェクトと照らし合わせて、「この方なら、こんなキャリアプランが描けるはずだ」という仮説を立てておく。そうした提案をしながら候補者の5年後、10年後の未来に寄り添っていく姿勢が重要になってくると考えています。
今後候補者自身の市場価値がどのように変わるかわからないという不安を抱える中、面接で会社説明をされたところで、その不安は解消されません。ですから、ほぼキャリア相談のような形で「あなたの強みはこういうことにあると思いますけど、どうですか」や「あなたの経験は今後このように伸びますよ」といった整理を一緒にしていく。そうしてキャリアイメージを広げていくほうが未来を描いてもらいやすくなり、会社への安心感につながります。
むしろ、こうしたアプローチをしないと、内定を出したときに承諾いただけないのではないかと思っています。
芦川:そうですね。阪上さんのそうした熱い思いが、御社の人事メンバーの皆様にもしっかりと伝わっているなと私も感じています。
というのも、実は以前、御社の面接官トレーニングを多数担当させていただいたのですが、その際、参加された皆様が「候補者のこれまでの経験を活かして、どのような新しいキャリアを提案できるか」について、非常に真剣に向き合っていらっしゃったのが印象的でした。
採用は「入社したら終わり」ではありません。入社後にどうキャリアを続けていくかを見据え、実際に入社後もキャリア面談の機会を設けるなど、持続的に活躍できる環境作りに真摯に取り組まれていますよね。
そうした企業の姿勢が「入り口」である面接の段階から候補者にしっかり伝わる仕組みができている点が、本当に素晴らしいと感じました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
阪上: ありがとうございました。
【要点まとめ:内定承諾率を上げる「面接」のアップデート】
- 面接を「会社説明」ではなく「キャリア相談」の場にする
- 「スキルチェック」から「ビジネスパーソンとしての強み」の評価へ
- 履歴書から「仮説」を立て、未来のキャリアプランを提案する
【おわりに:選ばれる企業になるための採用コミュニケーション】
本セミナーでは、AI時代においてエンジニアに選ばれる企業の条件と、新しい採用基準について紐解きました。
候補者のスキルを測るだけでなく、彼らの「5年後、10年後の未来」に寄り添い、共にキャリアを描く姿勢こそが内定承諾率を高め、持続的に活躍できる組織を作る鍵となります。
「自社の面接官は、候補者の未来を引き出すキャリア提案ができているか?」
もしこのような課題を感じられている場合は、面接官のスキルをアップデートしてみませんか。


